蔵の歴史にも働く男達にもストーリー満載の飫肥の小蔵-本格焼酎ドット恋Vol.6:小玉醸造編


小玉醸造5種類の焼酎

「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒しずかに飲むべかりけり」
一人酒が寂しいDiceです。

毎月第2水曜日に「まごころダイニング やまぢ」の女将・黒木素弓さんが開催している「本格焼酎ドット恋」の例会。

これまで、「第2回 渡邊酒造場編」「第5回 雲海酒造編」の模様をお伝えしてきましたが、10月14日(水)に開催された第6回会合に参加できましたので、レポートお届けします。

 

蔵長は東京からのIターン組

蔵長の工藤洋愼さん

今回のゲストは、日南市飫肥にある小玉醸造合同会社の蔵長、工藤洋愼(くどうひろちか)さん。

工藤さんは、東京から宮崎にIターンしてきた人物。
東京の大学を卒業して百貨店に勤め、食品部で酒売場に配属されたのが焼酎との出会い。その後、売る方から作る方に興味が移り、2001年に宮崎にやってきたそうです。
最初は、同じ日南市の京屋酒造有限会社に入り4年間修行、その後、現在の小玉醸造合同会社に移り、原料や資材の調達を担当する蔵長として、若き杜氏・金丸潤平さんとともに蔵を盛り立てています。

工藤さんが働く小玉醸造は、1818(文政元)年に飫肥の城下町に創業したと伝えられる蔵ですが、平成に入って休蔵となっていました。
その蔵を再興したのが、かつて宮崎市江平にあった金丸本店を営んでいた金丸一夫さん。
金丸本店は、雲海酒造と合併することとなり姿を消し、一夫さんは一時、雲海酒造に席を置いていましたが退職、2000年に廃業寸前だった小玉醸造の営業権を取得して蔵を再興、2001年から焼酎造りを始めました。
その原動力となったのは、一夫さんの息子で、大学で醸造を学び、日本酒メーカーの神亀酒造を経て、宮崎県内の焼酎蔵で修行していた潤平さんの存在だったとのこと。

凄く簡単にまとめましたが、3人の男のロマンを感じる深い物語が、蔵の歴史には秘められているようです。

 

小玉醸造の造りの特徴のひとつが芋!

原料となる赤芋

工藤さんによれば、小玉醸造の焼酎造りの特徴は2つあって、一つ目は麹の仕込みを「手麹」と呼ばれる伝統的な手法によっていること。
この手法をとる焼酎蔵はあまりなく、日本酒の蔵では見られるそうで、このあたりは潤平さんが神亀で修行した経験が活かされているのではないかとのこと。

そしてもう一つの特徴が、原料となる芋にあります。
焼酎を仕込む芋には、「黄金千貫(コガネセンガン)」と呼ばれる、収量が多くデンプン価の高い芋が使われるのが一般的ですが、小玉醸造では「宮崎紅(ミヤザキベニ)」という果皮の赤い一般的に食用に使われる芋(赤芋)を使って、主要銘柄である「杜氏潤平」を仕込んでいます。
串間市を中心に県南は赤芋の主産地でもあり、県南の焼酎蔵には他にも赤芋を使うところが多いのですが、地元で採れた芋で、甘みと優しさのバランスが取れていることが使われる理由のようです。

 

さて、試飲!

杜氏潤平

ひととおり蔵の紹介が終わった後、これから飲む焼酎を全種類試飲します。
まずは、小玉醸造のフラッグシップである「杜氏潤平」
甘みのある、クリアで優しい味で、女性のファンも多く、おそらく県内よりも県外のファンの方が多いかもしれません。

 

別撰酵母

杜氏潤平別撰酵母

次に同じ「杜氏潤平」シリーズで宮崎県内の酒屋さんにしか出荷していない「杜氏潤平 別撰酵母」。
普通の「杜氏潤平」は、鹿児島県生まれの酵母を使いますが、この「別撰」は宮崎県生まれの「平成宮崎酵母」が使われています。米も変えてあるそうで、工藤さん曰く「今年の『別撰』は大人しい。香りも穏やか。」とのこと。
「来年は、また違う味になると思います。」とおっしゃいます。

 

宮の露

宮の露

3種類目は、金丸本店時代の芋焼酎の銘柄を復活させた「宮の露」
コガネセンガンで仕込むならこの銘柄だと、満を持してリリースされたものです。
11月中旬に発売予定ということで、この日のために一足早く特別に試飲させていただきました。
少しずつ足しながら、3年貯蔵されたもので、クラッシックで骨太な造りになっているということでしたが、確かに「杜氏潤平」と比べると甘みの中にわずかに酸度も感じるなど、より複雑な味わいがありました。
冬の時期にお湯割りで飲んで欲しい焼酎とのこと。

 

夏の潤平

夏の潤平

次は、一転してロックがお薦めの「夏の潤平」
コガネマサリという、コガネセンガンに劣らない品質を持つ芋で仕込まれ、夏の間にロックで飲んでもらえる焼酎というコンセプトで造られました。
最初の年は試験醸造で4合瓶1,000本からスタートし、昨年から一升瓶も出せるようになったそうです。
軽快で飲みやすい中にも味のある焼酎ですが、工藤さんは、
「来年は、使う芋は同じですが、味は大きく変わります。」
とおっしゃいます。
聞けば、杜氏である潤平さんは、毎年いろんなものを少しずつ変えながら焼酎を仕込まれているとのこと。
焼酎は、原料の出来具合や温度、湿度などの環境によって毎年味が違うのが普通なのですが、それだけではなくて、意図的に味を変えているのだそうです。
来年の「夏の潤平」、どのように変わるのか今から楽しみですね。

 

潤の醇

潤の醇

さて、最後の5種類目は、麦焼酎の「潤の醇」
県内で造られる麦焼酎は麦麹で仕込まれるものが多いのだそうですが、この「潤の醇」は米麹で仕込まれています。
工藤さんが「香ばし系」とおっしゃるように、麦の香りが香ばしい焼酎ですが、米の甘みとドライ感のバランスがほど良く、飲み方としては、炭酸で割って飲むのもお薦めなのだとか。
チーズにも合う焼酎なので、イタリアンやフレンチの皿とのコラボも楽しんでみたいものです。

 

チャレンジを楽しもう!

5種類飲み比べ

こうして5種類を少しずつ飲み比べてみました。
工藤さんは、自社の焼酎造りについて、
「酒質としては入口の酒だと思います。
たくさんの方に焼酎を飲んで好きになってもらいたいと考えており、その入口を作ってあげるのが(自分達の)蔵の役割だと思っています。
しかし、紅芋で作らせたらナンバーワンだと思って欲しい。一番は『潤平』だと言っていただけるように、焼酎造りに取り組んでいます。
大手メーカーさんは毎年安定した味を追求されていますが、自分達のような小さな蔵が大手と同じ事をやっていては面白くない。
あえて味を変えることにチャレンジしているので、そのあたりも楽しんでいただければ嬉しいです。」
とおっしゃっていました。

宮崎の焼酎生産量は日本一になりましたが、大手の努力だけではなくて、小さな蔵のこうしたチャレンジが多様なバリエーションを生み、それぞれの蔵が誇りを持って切磋琢磨することで、焼酎文化全体を豊かで奥深いものにしているのだと思います。

小玉醸造のチャレンジ、これからも楽しみにしています。

さて、蘊蓄も終わったところで、美味しい料理と美味しい焼酎のマリアージュ、楽しんでいきましょう。

続きはこちら

やまぢの料理で焼酎がすすむ!

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この記事を書いた人

2014年4月からテゲツー!ライターに参加。
趣味は料理で、2016年からフードアナリスト、2018年からは冷や汁エバンジェリストとしても活動中。
2020年4月に宮崎での7年間の単身赴任生活を終え、2022年3月まで東京・新宿にある宮崎県のアンテナショップを統括した後、さいころ株式会社を設立、同社代表取締役。
テゲツー!のアドバイザーで後見人的な人で、玄人受けするその記事にはファンも多い。

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