樹木精油で森の生産物の出口を増やしたい-楠山蒸留所/三股町


蒸留器(アランビック)

皆さんこんにちは。昔は花粉症で苦しんでましたが、いつの間にか克服したDiceです。

あれは昨年12月のことでした。
綾町の香月ワインズで開かれた「日向夏わいん」の販売会に出かけたところ、スギの精油(エッセンシャルオイル)を販売している人がいらして、三股町で銅製の蒸留器を使って作っているというお話しを伺いました。

その場は、いずれ取材させてくださいという話で終わったのですが、ようやく詳しい話を伺う機会に恵まれたので、車を走らせて三股町の椎八重公園の近くにある「楠山蒸留所」まで出かけてきました。

目次

理想の森を探して三股町に辿り着きました

吉水純子さん

お話しを伺ったのは、植物由来製品の原料、主に精油をメインとした植物油脂を扱うQUSUYAMA LLC. 代表の吉水純子さん。

静岡県伊豆の出身で、ヒマラヤで現地の人々とともに樹木精油づくりに携わっていた吉水さんは、2011年4月に帰国後、日本国内で精油の製作を行うべく、理想とする森探しのために全国各地を回ったそうです。

なかなか条件に合う森が見つからない中、辿り着いたのが宮崎県三股町にある、株式会社総合農林が管理する森でした。
そこには、皆伐(一定のエリアの樹木を全て伐採し、その後に植樹を行う方法)を行わない、吉水さん好みの森があり、人間生活と林業のことを考えて淡々と森づくりをしている林業家がいました。

「樹木精油づくりは、原料の調達など、林業家と一緒にやらないとできません。
林業についていろいろと学ぶ中で、森づくりの中に入りたかった、精油づくりを森のサイクルの一環にしたいと思いました。
この場所は、沖水川の上流でその水源の水も使えますし、燃料となる薪も総合農林の林内で炭焼きをやっている人から購入できます。
全国いろんな場所を探しましたが、これほど条件が良くて素敵な場所は他にありませんでした。」

と吉水さんは話します。

「それと、宮崎は人が優しい。移住者に慣れていて、温かく受け入れてもらえたことも決め手になりました。」

とのこと。

森と街の接点を増やすことができれば

総合農林の佐藤浩行さん

その林業家、吉水さんのプロジェクトに共鳴して蒸留所に敷地を貸している、株式会社総合農林代表取締役の佐藤浩行さんにもお話しを伺いました。

「宮崎で管理している森は、鰐塚山の西側にあり、元々都城島津のお殿様が所有していた2,200ヘクタールの森です。
日本の森林は、戦後の拡大造林で広葉樹の森から針葉樹の森に変わったところが多いのですが、ここの森はそれ以前からスギが植えられ、皆伐して植樹することを何度か繰り返してきています。

昔はそれで良かったのですが、賃金コストも上がった現在、今の木材の価格では、労働集約的な林業のやり方はできなくなってきています。
いかに省力化するかが課題ですし、皆伐ではなく択伐にするとか、利用する樹種をスギなどの針葉樹だけではなく広葉樹にも広げるなど、様々なことを考えて、未来の森づくりを行う過渡期に来ています。

そんな時に吉水さんと出会い、林業者以外の皆さんに森のことを知っていただくきっかけになるのではないか、森と街の接点を増やすことができるのではないかと考え、一緒に事業をやることにしました。」

こちらでは、木材生産だけではなく環境貢献(防災や景観、生物多様性)との両立を目指すスイスの森林管理の考え方を参考に、森の多角的な利用により、持続可能な森づくりを模索していらっしゃいます。

森を守ることは水資源を守ることでもあり、それが農業や他の産業、ひいては我々の生活に繋がっていくので、普段はあまり森を意識しない街場の人にとっても、森林が維持されることは実はとても大事なことなのです。

日本の固有種スギを使って日本独自の精油を

蒸留後に原料のスギ葉を取り出す吉水さん

「12年前に日本に戻ってきて、森の仕事に関わり始めたのは7年前からになります。

林業は3K(きつき、汚い、危険)と言われますが、私はとてもカッコイイ仕事だと思っています。
木を伐る際に伐倒方向を決めるときや、道をつけるとき、その他様々な知識と経験を必要とするので、賢くないとできないですし、人の生活にはなくてはならない尊い仕事です。

林業の世界を少しだけ覗いたらもっと知りたくなり、勉強してみたら、どうやら森の生産物は出口が少ないことがわかりました。
木材以外は、特用林産物と言われる林産物は椎茸などのきのこ類が大半で、その他は木の実、山菜、うるしなどの工芸品原料、木炭など。

そこに私が一つだけできることとしてアロマ、精油を加えて、少しでも出口を増やすことができればと考えました。」

そこで取り組んだのが、スギを使って精油を作ること。

「宮崎は日本一のスギ材の産地で、スギ素材(丸太)の生産量が31年連続日本一。
スギは日本の固有種なので、その精油は日本オリジナルの精油になります。
特に適地でのびのびと育った飫肥スギは、精油づくりに向いていると思います。

ヒノキを使って精油を作っている人はたくさんいますが、私はその土地の樹を使って精油を作るのが流儀なので、ここで無理にヒノキを使った精油製造をしようとは思いません。
楠山蒸留所では、スギ以外は、ここの山で大量に自生しているカナクギノキというクロモジの仲間の樹を使っています。」

ここでビジネスモデルを作りたい

楠山蒸留所全景

吉水さんが、蒸留所で使っているこの蒸留器(アランビック)は、ポルトガル製。かまどは手作りの4代目だそうです。
蒸留の技術は、イタリアの蒸留家から学んだ吉水さんですが、試行錯誤しながら徐々に蒸留器の規模を大きくしていて、近々もう少し大きな蒸留器を近くの別の場所に設置する予定なのだとか。

「まずは自分でやってみて、精油づくりが森の循環に寄与するビジネスになり得ることを実証したいと考えています。

自分の年齢のこともありますが、自分で将来を見据えて環境にも留意して作ったものを残していく。負の遺産だけではなく未来へ繋がるものを確立するのは、一つ大人としての責任だと思うのです。

この蒸留所で、小さいところから始められるビジネスモデルを作り、それを全国の森に普及させたいと考えています。」

と語る吉水さんは、フットワーク軽く世界中を飛び回りながら、現場に身を置いて様々なことを乗り越えてきた経歴をお持ちです。

他にも仕事があるので、蒸留所にかかりきりにはなれないため、蒸留所で作業をするのは月に半分ほどですが、現在は幸いにして作っても作っても足りない状況なのだとか。

蒸留体験も受け入れています

蒸留体験受け入れ

楠山蒸留所では、実際に自分の手で蒸留して、できあがった精油と芳香蒸留水を持ち帰れる1泊2日の体験ツアー(55,000円/人)の受け入れも行っていて、伺った日は、岡山県から体験の方がお見えになっていました。

採れた精油

蒸留で採取できた精油は、こういう感じで3層になっています。
製品にする場合は、オイル分だけを抜き出して、不純物を濾過するなどの行程を経てボトルに詰められます。

香りを嗅がせていただきましたが、シトラスのニュアンスがあり、スギだと言われなければ、柑橘類の果実のオイルかと思ってしまうかもしれません。とても良い香りでした。

楠山蒸留所で作られているオビスギの精油、QUSUYAMA LLC. のオンラインショップで購入することができます(執筆時はSOLD OUT)ので、気になる方はチェックしてみてください。

本格稼働して2年目に入ったばかりの楠山蒸留所は、まだまだ小さな規模ですが、アロマ界隈はもちろん、林業関係者からも注目を浴びていて、今後の日本の林業経営に大きな影響を与える可能性を感じました。

オビスギ精油が、日本を代表する精油として世界中に流通する日を夢見つつ、春の陽光に包まれる蒸留所を後にしたのでした。

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この記事を書いた人

2014年4月からテゲツー!ライターに参加。
趣味は料理で、2016年からフードアナリスト、2018年からは冷や汁エバンジェリストとしても活動中。
2020年4月に宮崎での7年間の単身赴任生活を終え、2022年3月まで東京・新宿にある宮崎県のアンテナショップを統括した後、さいころ株式会社を設立、同社代表取締役。
テゲツー!のアドバイザーで後見人的な人で、玄人受けするその記事にはファンも多い。

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