静かに行く者は遠くまで行く ー 「こなら亭」の物語


「こなら亭」前

広い庭付きの一軒家暮らしに憧れていたのに、何故か1Kのアパートで独り暮らししているDiceです。

20数年来の友人が本を出すと聞いたので早速購入したところ、ご自宅で出版記念パーティーが催されるというので、5月終盤の雨の降る日曜日に、JR日南線に乗って出かけてきました。
(それから早2ヶ月、なかなか記事にできずに申し訳ない。)

こなら亭エントランス

そのご自宅というのが、本郷南方にある「こなら亭」
その友人というのが、木佐貫ひとみさん(以下、ひとみさん)さん。
そして、その本が『こなら亭暮らし』(ヴィッセン出版、1,480円+税)

ひとみさんと初めて出会ったのは、かれこれ30年近く前に鉱脈社で開催された、雑誌の出版企画会議だったと記憶しています。
当時はまだ、ラジオで道路情報を伝える仕事をされていました。
繊細で優しく、気遣いのできる女性というのが当時のひとみさんの印象でした。その印象は、基本的に今でもあまり変わっていません。
ちなみにこの時できた雑誌が、今も続く『タウンみやざき』ということで、私自身にとっても思い出深いのです。

庭への小径

その後はそれほど深いお付き合いではありませんでしたが、2004年に、銀行員だった坂元守雄さんが全20巻を自費出版された自然誌『みやざきの自然』という雑誌をWeb上にアーカイブするプロジェクトで再会。

宮崎の自然に関する深い知識と、その保護や保全に関わる人々とのつながりを持つひとみさんは、プロジェクトの成功に大きな役割を果たしていただきました。

その間にひとみさんは、ラジオのパーソナリティとして自然をテーマにした番組を手がけたり、様々なイベント等の司会を行う傍ら、実家の土地の一角を譲り受けて家を建て、コナラの林を模した雑木の庭を造り、「こなら亭」と名づけたその家とともに息子を育て、家庭と小さな生態系を育んできたのでした。

この『こなら亭暮らし』は、そんな「こなら亭」を中心に、庭の生態系や息子の成長を見守りつつ感じられた様々なことを綴ったエッセイ集です。

春から冬へと巡る一年の移ろいが、短い文章と、ひとみさん自身が撮影した多くの写真とともに構成されています。

全部で100ページに満たない掌編集ですが、よく練られた言葉による抑制の効いた表現が、コナラの林に降る雨のように、じわじわと心に染みてきます。
決して声高に何かを主張するのではなく、全編を通して共通するのは、自然のあるがままを見守る著者の心根の優しさ。

成功もあり失敗や挫折もあり、たくさんの笑顔の一方で、怒りや涙もあるのが人生ですが、
「雨もまた『良い天気』だ。」
と楽しめる余裕を心の内に持つことの大事さを本書からは教えられました。

 

人と人との出会いから生まれた本

木佐貫ひとみさん(左)と前田朋さん(右)

『こなら亭暮らし』の出版は、京都市にある小さな出版社の「ヴィッセン出版」
写真左が著者のひとみさんで、写真右が、その「ヴィッセン出版」の代表・前田朋さん(以下、朋さん)。

宮崎の「こなら亭」亭主と、京都の出版社の編集者の出会いのきっかけとなったのが、4年前に宮崎大学野生動物研究会に所属していた朋さんの息子さんというから、縁というものは面白いものです。。
取材で訪れたひとみさんと出会った息子さんが、ひとみさんと母親との相似性を感じて二人を引き合わせたのだとか。

このところ花の修行などで定期的に京都を訪れているひとみさんが、昨年5月に東山や鴨川の辺りを朋さんと一緒に歩いていた時、いつかは本を出したいという話になり、京都大学でランチを食べながらいろいろ話をして企画がスタートしたのだそうです。

こなら亭の庭の一角

まだきちんとした文章も無い時に、ページ数や紙質や装丁家を誰にするかという本の形が先に決まって行き、それと平行する形で文章が書き進められたというので、普通の本が生まれる過程とは少し趣が異なります。

ひとみさんの方は、本の中身については、
「20年間で感じてきた一番大事なことを書こうと思った。」
とのこと。

しかし、8月に最初の原稿を受け取った朋さんは、編集者としてその文章を
「キャリアのある女性の書いた文章で、肩に力が入っている。」
と感じたのだそうです。

それからは、ひとみさんの思いと文章を研ぎ澄ます時間で、朋さんが最後の文章を受け取ったのは3月に入ってから。

コナラの幹から芽吹く葉

一方、挿絵は昨年の夏、ひとみさんの文章がようやく顔を見せ始めたばかりの段階で既にできていたのだそうです。

描いたのは、ひとみさんの友人で名古屋在住のビーチコマーの林重雄さん
ビーチコーミングの指導のために日南に来られた際にひとみさんと知り合った林さんは、実はこなら亭を訪ずれたことはなく、ひとみさんが送った写真を参考に描かれたのだそうです。

題字は、京都在住の書家・神郡宇敬(かみごおりうきょう)氏、帯の讃辞は、ひとみさんの花の師匠である花士 珠實(はなのふ しゅほう)氏と、京都・慈照寺(銀閣のある寺)での花修行から生まれた縁がもたらしたもの。

ひとみさんに言わせれば、
「人のご縁でできたような本」
であり、
編集の朋さんにとっては、
「久しぶりに編集が面白いと思った。」
本となったのだそうです。

 

静かに行く者は、遠くまで行く

サイン中のひとみさん

座右の銘と言うか、好きな言葉を聞かれると、
「静かに行く者は、健やかに行く。
健やかに行く者は、遠くまで行く。」
という、経済学者レオン・ワルラスの言葉を引くひとみさん。

SNSを中心としたコミュニケーションで、物事の本質を見ずに、その時々の感情を短絡的にぶつけ合うことが当たり前のようになっている今日、目の前にある自然を見るということ、状況を受け入れ自然とともに生きるということを通じて、生き方、心のあり方を見直すきっかけになる本書。

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是非とも、お近くの書店や図書館で手に取っていただければ幸いです。

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この記事を書いた人

2014年4月からテゲツー!ライターに参加。
趣味は料理で、2016年からフードアナリスト、2018年からは冷や汁エバンジェリストとしても活動中。
2020年4月に宮崎での7年間の単身赴任生活を終え、2022年3月まで東京・新宿にある宮崎県のアンテナショップを統括した後、さいころ株式会社を設立、同社代表取締役。
テゲツー!のアドバイザーで後見人的な人で、玄人受けするその記事にはファンも多い。

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