「就労困難な様々な人に働く場を創る 」- 成澤俊輔氏講演会


成澤俊輔さん

8月20日に「第10弾テゲツー!寺子屋」として行われた成澤俊輔さんの講演会

長友まさ美会長が、機会があれば、成澤さんのお話をどうしても宮崎で聞いていただきたいと思い続け、急遽実現したこの講演会。

直前の告知だったにも関わらず、13名の方にお集まりいただきました。

「ライターとストローの共通点は何かわかりますか?」

講演会場の様子

「世界一明るい視覚障がい者」を自称する成澤俊輔さんのお話は、こんな問いかけから始まりました。

一生懸命に頭を働かせますが、参加者の中からはすぐには答えが出てきません。

「マッチを使う、ライターを使う、それぞれの場面を想像してください。
ライターは、片手が無い障がい者が作ったんです。兵士でした。
ストローは、首が据わらない障がい者が作ったんです。」

それが、成澤さんの答えでした。

「我々がやっているのは、そういうことです。
身近なところにある課題を工夫して解決する。それが他の人の生活にとっても、便利になることがある。」

そう成澤さんは続けます。

 

「30大雇用」に取り組む

講演中の成澤俊輔さん

成澤さんが理事長を務めるNPO法人FDAの母体であるアイエスエフネットグループでは、就労困難な人々の雇用創造に取り組んでいて、今年からその範囲を30の区分に拡大した「30大雇用」に取り組んでいます。
その30の区分というのが、以下のとおり。

ニート・フリーター
FDメンバー(Future Dream Member ※障がい者のことをアイエフエスネットではこう呼んでいます)
ワーキングプア/引きこもり/シニア
ボーダーライン(軽度な障がいで障がい者手帳を不所持の方)/DV被害者/難民
ホームレス/小児がん経験者/ユニークフェイス(見た目がユニークな方)
感染症の方/麻薬・アルコール等中毒経験者の方/LGBT(性的少数者)
養護施設等出身の方/犯罪歴のある方/三大疾病
若年性認知症/内臓疾患/難病/失語症
生活保護/無戸籍/児童虐待の被害者/破産者/父子家庭・母子家庭
記憶障がい/就労国の言語が出来ない 且つ 専門スキルがない外国人
不妊治療中の方/その他就労困難な方(介護中の方)

こうして30の区分を見ると、その雇用が容易ではないことは一目瞭然で、こうした雇用に真剣に取り組む会社があることに驚きます。

「いろんなジャンルの就労が難しい人が、国内に3,000万人います。
しかし、今日の話を聞いて、安心感を持って帰ってもらいたい。
皆さんも、家族が、友達が、一緒に働く仲間が、ある日突然、そういう場面にダイレクトにぶつかることが絶対にあります。
そんな時に、こんな会社があったなと思い出してもらえれば。」

と成澤さん。

成澤さん側から見た会場の様子

「今は、会社の従業員の13人に1人が鬱病になる時代です。
そんな中で、一緒に働く仲間に手をさしのべられるでしょうか?

私たちのグループでは、1,200名が社員として働いています。
障がい者が500人のほか、難民、LGBTなど、様々です。
障がいを持つ人の離職率は1%未満。
辞めないように、ずっと働いて貰う努力しています。

仕事の種類としては約300あって、どんな状態になっても安心して働き続けられるような取り組み、そんなことをやっています。」

2000年から始められた、就労が難しい人のための雇用創造は、「5大就労」から始まって、今は「30大就労」に拡大していますが、それは、既存の仕事に人を当てはめていくのではなく、その人の能力や特性に合わせて仕事を切り出し、仕事ができるように環境を整えていく作業の繰り返しによって成し遂げられたもののようです。

成澤さんのお仕事は、一つには組織の内部にあって就労者(その多くは障がい者ですが)に寄り添い、その悩みや思いを汲み取り解決へと導いて行くこと、そしてもう一つは、こうして組織の外へ出て話しをすることで就労困難者の雇用への理解を深め、就労困難者が携わることのできる仕事を増やして行くことと受け止めました。

しかし、ここに至るその道は、かなり厳しいものであったに違いありません。
私自身も障がい者の息子を持ち、その生活や仕事の一端についての一定の理解はありますが、様々な困難を抱える人々とひとりひとり向き合うことは、相当な知識に加え、覚悟と自信がなければできないだろうと思います。

 

世界一明るい視覚障がい者 成澤俊輔氏

世界一明るい視覚障がい者

7年前に完全に視力を失ったという成澤さんですが、
「困ることはありません。」
とおっしゃいます。
国内の出張は1人でどこにでも出かけられるのだそうです。

完全に視力を失ったとき、自分で自分がわからず、血がでるくらい自分の手の甲をかく癖ができてしまったそうです。
きっとそれは、「自分で自分を探す」意識の表れだったのではないかと冷静に分析します。

そんなある日、講演会をきいた方が、おわったあとにかけつけて、
「成澤さんのお話をきいて、生きる希望をもちました」と声をかけてきたそうです。

その一言があってから、その癖は、ぴたりと止まります。

「自分の存在って何だろう、と誰もが思っています。
目が見えなくなって、自分でなんとかしようと思いました。
でも、相手がいるから自分が居る。
自分で自分のことを見つけなくても、人が自分のことを示してくれる。
そこが、私の世界一明るい視覚障がい者の原点です。」

毎朝2時起き、21~22時には寝て、会食や接待とかは大嫌いと語る成澤さんは、その理由について、

「2時から6時は、人が一番死にたくなる時間帯なので、その時間は、必ず起きているようにしています。
セーフティーネットになって、自殺したいと思っている人の話を聞きたい。」

と語ります。

「会食、接待とかは、自分の時間ではないと思って心が揺れるんです。
自分がやっている仕事は、誰かと一緒にいる仕事。
酒を飲まなかったり、朝早く起きたりすることで、誰かの役に立っていればいい。

中学、高校の時は暗黒時代でした。
話を聞いてくれる人はいても、解決はしてくれない。
今は、そんな(解決してくれる)人に自分がなりたい。」

もう、じわじわと聞く者の心を揺さぶります。
主催者である長友まさ美会長が、冒頭で「お腹の中で太鼓を叩かれるような想い」と話していた感覚がよくわかります。

成澤さんを囲んで集合写真

最後の質疑応答で、「見えてますよね?」と聞かれた成澤さん。

それほどまでに障がいを感じさせない自然な立ち居振る舞いだった訳ですが、
「よく言われます。ウソつくのが得意なんです。(笑)」と返しつつ、

「見えるように見られる努力はしています。
ファッションとか、清潔感は大事です。
ビジネスをする上では、目が見えないことは実はいいことばっかりです。
一人で行っただけで驚かれます。元々期待値が低いので、加点されるんです。
案内していただけますし、ビジネスはしやすいですね。
見えないことで、できないことはいっぱいありますが、見えないことのリスクは何もありません。」

と話されました。

そうしたポジティブさも含め、世界一明るい視覚障がい者は、参加者に深い感動とともに、支える人がいるという安心感、自分たちも何かできることがあるはずという決意を与えていただきました。

成澤さん、そしてテゲツー!寺子屋に参加いただいた皆さん、ありがとうございました!!

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この記事を書いた人

2014年4月からテゲツー!ライターに参加。
2020年8月からテゲツー!のWebサイトの管理運営を引き受け、ライター兼編集長としてテゲツー!全般の面倒を看ています。
趣味は料理で、2016年からフードアナリスト、2018年からは冷や汁エバンジェリストとしても活動中。

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