老いてからボケ防止に短歌を習い始めた母を尊敬する、Diceです。
あまり知られていませんが、宮崎は、俳句や短歌、詩の文化が脈々と受け継がれていて、奥深くも豊穣な世界が広がっているのです。
ところで、国道220号線を日南市に向けて南下する途中、宮崎市と日南市の市境にある「いるか岬」に向けてゆるやかに左カーブする道の右手に、このように右側山手に上る道への入り口が現れます。
この入り口に、上の写真に見えるように、
100先 →
神尾季羊句碑
と書かれた案内板があるのですが、何があるのかと気になっていた人は、私に限らず少なくないのではないかと思います。
神尾季羊(かみお きよう)さんは、1921(大正10)年1月2日に愛媛県松山市で生まれ、本名を匡(ただし)と言います。
まだ幼い頃に宮崎に移住ましたが、小学生の頃に結核にかかり、実母、継母を早く亡くすなど苦労したようです。
病気のために通常より2年遅れで宮崎商業学校(現・宮崎商業高等学校)に入学、在学中に病気再発で更に1年遅れますが、卒業後は日本勧業銀行宮崎支店に入行。
入行後の1945(昭和20)年に俳句を始め、当初は田村木国に学びますが、1950(昭和25)年に野見山朱鳥が主宰する『菜穀美』に参加。朱鳥の没後、1973(昭和28)年に藤田湘子が主宰する『鷹』に加わりました。
1954(昭和29)年に宮崎の俳句結社『椎の実』の主宰を小田黒潮から引き継ぎ、76歳で亡くなる1997(平成9)年まで、『椎の実』を中心として後進の指導で宮崎の俳句界に多大な貢献を行い、その功績が称えられて1971(昭和46)年には宮崎県文化賞を受賞しています。
また、生涯で『石室』『暖流』『権』『同席』『日向』の5句集と自註句集『神尾季羊集』を遺しています。
激坂を上った先にある自然石の句碑
国道220号線から案内のある入り口を入ると、すぐに急坂となります。
私は、愛用のクロスバイクで出かけたのですが、斜度20度を超える激坂の前に、心が折れそうになりました。
それでも、必死の思いで上ると、左側にこのような案内標が見えてきました。
案内標の先を左に入ると、太平洋を望む小さな広場の左側に目的の石造りの句碑が設置されていました。
句碑の両側には、宮崎県の花でもある浜木綿(ハマユウ)が植えられています。
季羊が自らの原点とする一句
句碑には、
「浜木綿の花の上なる浪がしら 季羊」
と刻まれています。
『神尾季羊の世界 季羊俳句に学ぶ』(甲斐多津雄著、鉱脈社 みやざき文庫93)によると、『自在句集シリーズ』の巻頭に収録された句で、
”終戦。身も心もずたずたになり、烈日の下でぼろぼろ涙を流しながら一ツ葉浜に佇った。戦争と関わらぬ自然に強烈な感動を受けた。 二十四歳
との自註があるとのこと。
また、遺句集となった第5句集『句集 ひむか』(神尾季羊著 1999.6 角川書店)のあとがきで妻の神尾久美子が、
”「終戦の日のこの一句から自分の句生涯ははじまった。日向(ひむか)という大地に自分はいまこうして立っている。感涙あふれたあの日を永久に忘れない。」と、折にふれて言っておりました。
と記しています。
偉大なる俳人に感謝
句碑の左には、説明板も設置されていました。
2009(平成21)年に、前述したように、宮崎県の俳句界に多大な貢献をした功績を称えて、句碑建立実行委員会の手によって設置されたことがわかります。
『慈眼温心 ひむかの俳人神尾季羊の世界』(鈴木昌平著 1998.7 鉱脈社)によれば、
”「椎の実」の経営万般を預かってからの季羊は時に宿痾の肺結核と喘息に悩まされる中、銀行員としての職務を誠実に遂行しつつ。その余力を全て「椎の実」に傾注した。余力とは単に体力のみを意味するのではない。俸給生活者としての限られた家庭経済の資力を可能な限り切り詰めて、その残余の殆どすべてを「椎の実」に注ぎ込んだのである。「椎の実」の主宰者であるかたわら、NHK宮崎放送局のラジオ文芸俳句部門講師、日向日々新聞俳壇選者、宮交シティ・カルチャー講座俳句部門講師、その他多くの俳句関連事業の指導者となって、宮崎県における俳句人口の拡大と宮崎俳壇の質的レベルの向上に尽くした。宮崎俳壇の今日の活況は、神尾季羊を抜きにしては到底あり得なかったことである。
とあります。
激坂を上った先、「ロマンヶ丘」には、日向灘を望む風光明媚な景色と、偉大な俳人への畏敬の念、知る人ぞ知る宮崎の俳壇史があったのでした。
ということで触発されて、お粗末ながら私も一句。
「先達の句碑を守りし浜万年青 賽子」
あなたも是非この地を訪れて、一句詠んでみませんか!?
参考文献
『句集 ひむか』(神尾季羊著 1999.6 角川書店)
『慈眼温心 ひむかの俳人神尾季羊の世界』(鈴木昌平著 1998.7 鉱脈社)
『神尾季羊の世界 季羊俳句に学ぶ』(甲斐多津雄著 2012.11 鉱脈社 みやざき文庫93)
【神尾季羊句碑】
住所:宮崎市内海 → マップ