緊張したときや寝不足、ストレスがたまったときなどにお腹が痛くなった経験のある人は、少なくないと思います。
でも、もしそれが、ひん繁に起こるのであれば、もしかしたら「過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome。以下、IBS)」かもしれません。
IBSとは、「腸が精神的ストレスや自律神経失調などの原因で刺激に対して過敏な状態になり、便通異常を起こす病気(参考:e-ヘルスネット(厚生労働省))」のこと。
原因がなかなかわからず、日常生活に支障を来している事例も少なくないそうです。
今回は、2023年9月7日のテゲツー記事で紹介した、IBSについてのトークイベント、「お腹が弱い人の困りごとってなんだろう〜お腹の痛みと共に生きる、共に支える〜」をリポートします。
【イベント概要】
日時:2023年9月16日(土) 14時00分~15時30分(開場︰13時30分)
対象:お腹の弱い方、IBS患者、IBS患者のご家族・パートナー、その他当イベントにご興味のある方
会場:株式会社SUNAO 製薬本社
参加費:無料
主催:株式会社SUNAO 製薬
第1部「IBSについて知ろう」
まずは、株式会社グッテ代表取締役の宮﨑拓郎さんによる、IBSとは何なのかについての講話からスタート。
製薬会社に勤務していた宮﨑さんは、薬だけでは解決しない、患者さんの抱える課題に気づきます。
そこで、栄養学を学ぶために会社を退職し、アメリカのミシガン大学に留学。
そこでは、IBSや潰瘍性大腸炎など、腸の病気を改善するための食事の研究や病院での食事指導に携わりました。
帰国後は、レシピサイトの運営、お腹に不安を抱える方向けの商品開発を行う「グッテ」を起ち上げるなど、腸に関する悩みを持つ人たちの支援を幅広く行なうことになりました。
IBSの原因は現時点でまだよく分かっていません。
内視鏡検査などで炎症やポリープなどの疾患が見つかれば、それが原因だと診断されます。
しかし、IBSの患者は、炎症などの器質的症状がないのに、慢性的な腹痛や下痢、便秘などを訴えるのが特徴的。
このため、アメリカでは当初、メンタルの問題ではないかとされ、「気の持ちよう」「心の弱さ」などと言われることも多かったようです。
しかし、研究が進むにつれて、食材やストレスなど、ふだんの生活の行動様式や腸内細菌、脳などさまざまな要因が関わっていることが明らかになってきました。
IBSの症状は、大きくわけて「下痢型」「便秘型」、その両方をあわせ持つ「混合型」の3種類。
国内では、7人から10人にひとり程度の患者がいるといわれています。
ただし、現在でも全てのメカニズムが明らかになったわけではありません。
重要なのは、自己判断をしないこと。
まずは、消化器内科など専門の病院に行き、内視鏡や血液の検査などを受けた上で、ほかの病気ではないことを調べるべきなのです。
「患者さんの声も聞きながら、このイベントを通してIBSがどういったものなのかを理解して、一緒に考えてほしい」。
宮﨑さんは、このように第1部を締めくくりました。
第2部「お腹が弱い人の困りごとってなんだろう」
第2部では、宮﨑さんに加え、IBSの経験者も登壇し、具体的な症状や対応などについて掘り下げました。
ファシリテーターは、このイベントを主催された、株式会社SUNAO製薬代表取締役・廣澤直也さん
HARUさんは、IBS患者の当事者団体「IBS place」の代表。
HARUさんの場合は、便秘型のIBSと診断されたのは中学2年の秋頃。
もともと便秘気味だったそうです。ところが、ある日を境に、すごい量のおならが出るようになりました。
合わせて、ガスでお腹が張り、出ないように我慢していると腹痛がひどくなるという悪循環も起こります。
辛かったのは塾通いや、校外学習、修学旅行の際のバス移動など。
社会人の一年目では、接客業務で長時間、持ち場を離れられず、困ったこともありました。
10年ほどに渡る服薬治療では痛みが若干マシになる程度で、便秘とガスの症状は大きく変わりません。
そうこうするうちに、食べると発症につながる食材が分かってきて、だんだんと対応ができるようになっていきます。
さらに、25歳から習いはじめたヨガで、深呼吸によってリラックスすることで自律神経を整え、ストレスを溜めない生活も心がけるようになりました。
帆秋(ほあき)慎太郎さんは、食品製造、卸の会社・東洋物産株式会社(大分市)の代表取締役社長。
自らも患者として低FODMAP(*1)食品開発にも取り組んでいます。
*1=FODMAPとは、小腸で吸収されにくく大腸で発酵しやすい糖質の総称。
田辺三菱製薬・IBS症状別レシピ集記事・コラム「過敏性腸症候群(IBS)の改善に低FODMAP食の進め方」
帆秋さんは、子どものころからいわゆる「トイレによく行く」タイプでした。
当時、自分としては普通の感覚だったのに、まわりはそう見てくれなくてギャップを感じて苦しんでいた時期もありました。開き直って、ガキ大将のように振る舞っていたこともあったそうです。
帆秋さんはふだんから、ストレスの元をできるだけ断つことを大事にしています。
ただ、会社経営者という立場上、なかなか思うようにいかない日も。
そのときは、ストレス緩和のために自宅でお酒を嗜みリラックスして、翌日に持ち込まないよう気をつけているそうです。
患者の中には、人と同じ空間で仕事をすることが難しく、フルリモートで働く人もいます。
反対に、ショップの店員をしていて、仕事中は接客などである程度自由に歩けるため苦にならないと言う人もいます。
ある小学生のIBS患者の親は、入学時に提出する書類にあったアレルギーの有無の質問にチェックを入れて、栄養士と担任の先生に説明。
症状を引き起こしそうな食材が給食に出るときは、代わりのものを持参させてもらうなどの対処をしているそうです。
患者にとって難しいことのひとつは、発症のメカニズムが分かっていないこと。
家族や友人にも説明しづらく、症状を訴えても「気持ちが弱いから」などと一蹴されてしまうこともあります。
宮﨑さんは、「そういう体質の人もいるんだねと受け止め、寄り添ってあげることだけでもずいぶん違う」と言います。
治療法として、宮﨑さんの留学先であるミシガン大学の大学病院では薬物療法を行っていました。
それで効果がない場合、食事が要因の患者は管理栄養士が、低FODMAP食などの食事療法を取り入れています。
また、ストレスが要因の場合は、認知行動療法や臨床心理士による介入などが行われ、実際にそれで改善された人もいるそうです。
ただ日本国内では、今のところまだ研究段階にあるため、診療の一環で管理栄養士や臨床心理士が介入する事例は少ないそうです。
今後、この治療法が効果的だというエビデンス(証拠)が蓄積されていけば、治療の選択肢も増えるのかもしれません。
第3部「休憩・ティータイム」
登壇者のお話が終わった後は、ティータイムとして低FODMAP食の試食会が行われました。
提供されたのは、グッテと明治アクセラレーター社が開発した低FODMAP食品「やさしいひとくち」、帆秋さんの会社・東洋物産が製造する洋菓子、そしてSUNAO製薬が開発した低FODMAPプロテイン「FODUP」など。
栄養補助食品にはどうしても、「体に良いのはわかるけど、おいしくないよね!」というネガティブな印象を抱きがちです。
でも、今回提供された食品は、参加者から思わず「おいしくてビックリした」という声が上がるほど、味にこだわったものばかりでした。
イベントに参加した宮崎市の30代男性は、
「ふだんからお腹が弱く、整腸剤をよく服用しているが、違うやり方で解決できるのなら面白いと思って参加した。
自分の体は食べ物でできていると気づけたので、食生活を見直すきっかけにしたい」
と話してくれました。
「IBSが広く知られていないため、ずっと課題に思っていたが、少しでも知っていただく機会になってそこがすごく良かった」と、主催したSUNAO製薬の廣澤さん。
「まだまだ認知度は低いのが現状。宮﨑さんや帆秋さん、HARUさんたちにもご協力いただいて、このようなイベントを九州各県で開催するなど、知っていただける機会を増やしたいですね」という言葉で締めくくられました。
鹿児島県生まれ宮崎県育ち。山口県で10年超を過ごし再び宮崎へ。
テゲバジャーロ宮崎のファン兼番記者 / フリーランスライター
人生に欠かせないものは音楽とお酒と活字と睡眠 / そしてお城めぐりは永遠のテーマ(最近、御城印・御朱印帳買いました)