第二部:会場からの質問に答えて
会場:読書県日本一を目指すきっかけは?
河野:何かの数値を日本一にしたいということではなく、読書を高めたいという旗を掲げたかった。
会場:司書をどう育てていくのか?
河野:その点については、(会場に来ている)県立図書館長の方が詳しいと思うが、そういう期待に応える取組をしていかなければならないと考えている。
県全体としてレベルアップをしていかないといけないので、例えば県立図書館との人事交流などもあって良いのではないか。
猪谷:図書館は、ハコを作っておしまいではなく、人が大事。是非、よろしくお願いしたい。
会場:図書館の現場では、非正規雇用が増えているが、日本図書館協会としてどのように取り組むのか?
森:個々の司書の問題と、司書が労働者として働き続けられるかは別の問題。
協会の研修は、キャリアアップという個々の問題に対応するために行っているが、キャリアアップと専門職としてのプロモーションが一体とならなければならないと考えている。
協会としては、図書館は指定管理にはなじまないという立場。プロモーションがきちんとできるような社会構造を作っていくことが大事だが、何よりも、それぞれの自治体における首長の理解が必要。
「図書館の設置及び運営上の望ましい基準」は作っているが、更に制度設計と運動が必要かと思う。
猪谷:人は大事だと思う。
西井さんから震災の記録の保存に取り組む図書館員の話があったが、あちこちの自治体が被害を受ける中、復興しようとする人達の姿に心を打たれた。
西井:非常時に心の拠り所となるのも図書館の役割。
有事の際に、自治体のこと、まちのことを考えてくれる司書としてのあり方を思うと、指定管理の人々がどこまでやってくれるのかと思う。
司書に対するリスペクトが必要。まずは、自治体の組織の中で、知事部局の人が司書をリスペクトすることが大事ではないか。
トップランナーの図書館ばかりが紹介されるが、それが良いとも言えない部分もある。
なぜかと言うと、図書館の中で優秀な人材は、知事部局に吸い上げられてしまう。バリバリ仕事をするのは図書館でもできるのに。
図書館は今まで組織の中で下に見られていたのではないか。しかし、潮の変わり目にある。今ほど図書館が注目されている時代はない。
できることから少しずつやり、優秀な人材を図書館に送り込む。負のスパイラルを正のスパイラルに変える。
益城町の非常勤の人達でもそこまでやれるのだから。
猪谷:そういう図書館を作るためには、何が必要なのだろうか?
今回のテーマである「まちづくり」に立ち返ると、理想的なまちづくりと図書館との関係はどのようなものなのか?
河野:県立図書館が市町村立図書館を支える仕組み作りが必要と考える。
どこでも支える、つなぐ、というネットワークを構築する仕組み作りが必要ではないか。
猪谷:いろんな人達をつなげられるものが読書。図書館と書店との連携については、どのように考えるか?
森:連携というとイベントが思い浮かぶが、そのための本、蔵書がきちんとできていなければ、単なるお祭りで終わってしまう。
蔵書と、それを使いこなす司書を忘れないで欲しい。
「子どもの読書活動の推進に関する法律」の制定により、連携の場が広がっている。読書運動というあり方が変わってきている。
図書館での選書は、以前は新刊見計らいで地元の書店と連携していたが、本の流通が変わってできなくなってきているのが悩み。
読書を推進するイベントで図書館と書店が連携するところは増えている。図書館で買えない本を個人が買おうとする場合に書店との仲介をしたりする例もあり、お互いをお互いが利用しなければ。
猪谷:ここで、会場にいらっしゃる糸賀先生(糸賀雅児、元慶應義塾大学教授)、コメントがあればお願いしたい。
糸賀:あえて、指摘をひとつしたい。
図書館は、従来、教育委員会が所管していたが、これは教育の独立性や社会教育の自立という観点からそうであったのだが、それが変化しつつある。首長と図書館のあり方について、どのように考えているのか?
河野:スポーツや文化など、教育委員会と知事部局の両方で所管しているものがある。教育委員会は、予算面で弱い部分があり、知事部局が所掌するのは、首長としてその分野に力を入れるというメッセージで、教育委員会を後押ししている。
西井:伝統的な図書館像があり、崩してはいけない部分がある。それは、首長の思想や信条から離れた所で図書館の本を選ぶこと。
ご指摘の点については、性善説で考えてはどうかと思う。図書館は、貸出冊数ばかりを競い合うわけではない。人を育てたりまちを元気にする施設で、知事部局も教育委員会も同じベクトルを向いている。
図書館というシステム、枠組みを使って、人を育てる、人と人とで交流して行こうというのは同じ。
森:図書館が図書館であるために、市民は何をしたら良いのか。
図書館には「図書館協議会」を置くことが法(図書館法)で定められている。どんな図書館を望むかを、協議会を通じて伝えていくことができる。
その点では、日本図書館協会としては取組が遅れている。会場に、図書館友の会全国連絡会の福富さんも会場にお見えだと思うが、市民団体との意見交流もやっていくことが必要。
猪谷:地域の人達が中心の図書館を、皆さん持ち帰って是非作り上げて行っていただきたい。
宮崎県内の図書館の実態
以上、7月5日に千代田区立日比谷図書文化センターにおいて開催された、日本図書館協会主催のシンポジウム「図書館とまちづくり」の概要についてお伝えしましたが、参考までに宮崎県内の図書館の現状について、少し整理をしておきましょう。
『図書館年鑑2016』(日本図書館協会)から、2015年度の都道府県ごとの図書館のデータを拾ってみると、
宮崎県の図書館数:31(県立1、市立19、町村立11)
自動車図書館台数:9(県立1、市立7、町村立1)
設置自治体数:18(設置率69.2%)
(全国平均が75.5%で、町村の設置率9/17(52.9%)は全国平均55.1%を下回る)
専任職員数:60人
有資格者率:35.0%
(全国平均の52.0%を下回り、山形15.3%、青森32.5%、群馬28.8%、に次いで下から4番目)
人口100人当たりの蔵書冊数:335.7冊
(全国平均334.1冊のちょっと上)
年間の受入冊数:93.7冊
(全国平均126.9冊を下回り、青森84.7、宮城82.7、神奈川75.8、に次いで下から4番目)
人口百人当たり貸出冊数:274.0冊
(全国平均523.7冊のはるか下、青森239.3、秋田208.4、に次いで下から3番目)
人口当たり資料費:129円
(全国206円、神奈川97円、青森113円に次いで下から3番目)
このように、宮崎県内の公共図書館のサービスレベルは、全国的に見てもまだまだという状況にあり、特にシンポジウムのなかでも強調されていた、図書館の活動を支える人=司書の数は下から4番目と下位に沈んでいます。
宮崎県が日本一の読書県を目指すために道のりは、決して平坦では無く、長いもののように思えますが、公共図書館だけに頼るのではなく、人々が本に触れる機会や、本と人々を、人と人とを繋ぐ司書の活躍の場をいかに増やせるのか、改めて考えなくてはならないと感じました。
そのために、テゲツー!も何かしらお手伝いできれば。