図書館司書の資格も持っていて、たった3年ですが図書館で働いたこともあるDiceです。
去る7月5日(水)に、千代田区立日比谷図書文化センターにおいて、日本図書館協会主催のシンポジウム「図書館とまちづくり」が開催されました。
このシンポジウムのパネラーとして、宮崎県の河野俊嗣知事が登壇するというので、たまたま東京にいた私が、聴衆の一人として参加してきました。
会場に着いたら、一般参加者とは別に、取材者枠で遇されたのに驚きましたが、確かに申し込む時に所属を「宮崎てげてげ通信」としてましたからね。報道陣の一角として認めていただいたのは、嬉しいやら、恥ずかしいやら。
図書館への認識を高めなければ
シンポジウムは、日本図書館協会森理事長の開会挨拶に続き、図書議員連盟会長である細田博之衆議院議員の来賓挨拶で幕を開けました。
なぜにこの場に国会議員が?と思いましたが、
「国会には国会図書館がありますが、予算を要求する官庁が無いため、国会議員が超党派で議員連盟を作って、予算要求などのお手伝いをしている」
とのこと。なるほど、勉強になりました。
それだけではなく、
「国民それぞれが、図書館を活用して読書に親しむことが一生の宝になっており、図書館への認識を高め情報収集ができるようにしなければならない。」
との話をさらりとされるあたり、さすがに連盟会長という感じでした。
図書館の購入なしに出版社は存在できない
続いての挨拶は、日本書籍出版社協会の相賀昌宏理事長。
出版社と図書館との関係は、「本が売れないのは、図書館が新刊をやたらに貸出するせいだ。」みたいな、出版社サイドからの一方的な批判もあったりして、決して円満とは言えない状況もありましたが、この日の相賀理事長のご挨拶では、
「特に専門書の場合、高額な書籍が多く、図書館の購入抜きでは出版社は存在できない。」
というお話もあり、
「図書館の資料費も年々減っていく中で、地方交付税算定分の資料費としての予算化には、議員やマスコミの理解と、最終的な首長の判断が必要であり、そのことを知らしめる必要もあるので、図書館サイドと一緒にそのための活動をしている。」
とのことでした。
図書館は、まちづくりとどう関わってきたか
シンポジウムの本題に入り、まずは日本図書館協会の森茜理事長が、「図書館はまちづくりとどう関わってきたか」と題して、2016年に全国の図書館設置自治体に対して行った「自治体の総合計画等における図書館政策の位置づけについて」アンケート調査結果について報告。
1,361の図書館設置自治体のうち、アンケートに回答のあった1,049自治体で、
図書館を利用したまちづくり等事業を実施しているのは497(全体の約47%)、
自治体の総合計画等に何らかの形で図書館事業がある自治体は689(全体の約66%)、
そのうち、地方創生総合戦略に掲載されているのは88(全体の8%)、
とのこと。
図書館が行う事業は、ひとづくりに関するものが多く、それは、図書館の蔵書・資料が基盤になっていると分析。
また、具体的な事業の例として、
まちづくり関連:滝川市立図書館(まちなか連携事業)
ひとづくり関連:福岡県立図書館(70歳現役応援セミナー、子育て女性の出張就業相談)
しごとづくり関連:小山市立図書館(ビジネス支援、農業支援)、鳥取県立図書館(ビジネス支援)
が紹介されました。
日本一の読書県を目指して
続いて、宮崎県の河野俊嗣知事が、自己紹介を兼ねた報告。
「新しい取り組みを始めたと言うことでお招きをいただいた。まだまだという所もあり、恥ずかしい点もある。」
という前置きに続いて、まずは、宮崎県のことについて、スポーツ合宿、食、自然、人口、特産物などについてスライドを交えて紹介。
図書館については、
「県内26市町村中、19市町村に31館が設置され、未設置市町村は7。県立図書館については、人づくりと地域づくりに役立つ図書館に平成18年度から取り組んでおり、例えば、食のデザイン塾やフードビジネスの取り組みがある。」
と報告。
『日本一の読書県』を目指していることについては、
「読書は重要だというメッセージで、2期目の選挙の公約に掲げて、事務方が施策として整理したもの。政治家として目標を掲げたもので、様々なネットワークを通じて実現に向けて動いている。」
と話されました。
この後、県庁内の図書館長に係る人事に触れ、
「前の前の知事の時に、それまでの慣例を破って、総務部長が図書館長に異動。左遷だった。しかし、改革に結びつく仕事ということで、良い仕事をしていただいた。
今は、(知事部局から)エースクラスの人材を館長に送っている。
更に、名誉館長ということで、歌人で若山牧水研究家の伊藤一彦氏に就任いただいている。」
と裏話を披露。
また、最近の話題として、
「平成26年に『日本一の読書県』を打ち出したが、翌年度の予算で県立図書館の資料費が大幅減額になった。これは知事査定の段階では全く説明が無く、その前の教育委員会の段階でシーリングにかかって減額されたものだった。」
と話し、日本一の読書県づくりについては、
「実態はまだなかなかだが、目標を掲げることが大事だと考えている。」
と締めくくりました。
これに対して、司会進行役の猪谷千香さんから、
「予算削減については、確かにギャップが激しかったが、県立図書館には県立図書館の現状があり、あちこち大変な状況がある。
是非とも、モデルとなるような取組を期待している。」
との感想が寄せられました。
市町村図書館の取組
続いては、『つながる図書館』や『町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト』などの著書のある、ジャーナリストの猪谷千香さんが、市町村立図書館における最近の動きについて報告。
最近の図書館を取り巻く状況として、3つのエポックメイキングな事象が紹介されましたが、まずは、2013年の武雄市立図書館の開館。
猪谷さんによれば、
「賛否両論あるが、経済効果が20億円とか発表されると、集客施設なのかと思ってしまう。
注目を集め、中心市街地の活性化に役立つと期待された。
この後、図書館の運営にCCCを使おうとする自治体の大半は、中心市街地の活性化が目的。」
とのこと。
続いて紹介されたエポックメーキングな事象は、2014年の『地方消滅』。
「896自治体が消滅可能性のある都市とされたが、図書館は自治体と一蓮托生なので、図書館も消滅する可能性があるということ。」
更に、2015年は、鎌倉市立図書館が8月26日にツイッターで行ったツィート。
もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。マンガもライトノベルもあるよ。一日いても誰も何も言わないよ。9月から学校へ行くくらいなら死んじゃおうと思ったら、逃げ場所に図書館も思い出してね。
— 鎌倉市図書館 (@kamakura_tosyok) 2015年8月26日
「是非はいろいろあるが、このツィートがなぜ一般の人々の心に刺さったのかを考えると、図書館は単に本を貸し借りするだけの場所ではないということ。」と猪谷さん。
そうした人々の認識と、自治体の図書館に対する認識に「若干のズレがあるのではないか」とする猪谷さんは、「図書館は、最も使われている公共施設」であると言い切ります。
「財政難や施設の老朽化などの理由により、図書館の再編や複合施設化が進んでいる中で、地域活性化のための集客施設としての期待があり、商業施設との複合化の事例も出てきています。
図書館が、地域のつながりや、コミュニティをまとめる場になっていますが、そうなってくると、その法的根拠が社会教育法なのか地方自治法なのかということになり、教育委員会から首長部局へ移管される図書館が増加して、現在168館以上になってます。」とのこと。
そして、最近の新しい動きを代表する図書館として、次の3館を紹介しました。
瀬戸内市民図書館
市の直営で運営されている図書館で、市民との12回のワークショップを経て開館。
市の総合計画に「市民の学びの場」と明記されている。
健康医療情報セミナーを開催したり、「認知症にやさしい本棚」を設置するなど、司書の領域が広がっている。
紫波町オガールプロジェクト
補助金に頼らない、公民連携で駅前を開発。
広場を中心に、ランドスケープデザイナーや町民とのワークショップでデザインを作り上げて行った。
図書館は、農業支援サービスを展開、イベントを開催し、今では年間100万人以上が訪れる街になっている。
指宿市立指宿・山川図書館
2007年に指定管理になったが、受託者のNPO法人本と人をつなぐ「そらまめの会」によって、「赤ちゃんもヤングアダルトも笑顔になる図書館」として改革が行われた。
市民参加型の図書館フェスなどの活動を行っているが、廃止になっていた移動図書館の復活を目指して、クラウドファンディングで移動式のブックカフェを作るプロジェクトにチャレンジして賛同者と資金を集めた。
そして、こうした動きの背景にあるのが、首長の理解(大事)と、市民によるボトムアップだとして、報告を締めくくりました。
司書がやりがいのある環境を
そして第一部の最後に、図書館の中でも最も大事な要素だと思われる職員=司書の問題について示唆を与えていただいたのは、読売新聞東京本社論説委員の西井淳さん。
「図書館の記事が紙面に載らない日がないくらい。図書館は、自治体のまちおこしに欠かせない施設になっており、記事は、図書館が注目を集めていることの証左。」
とする西井さんは、熊本県益城町立図書館の職員が、震災の記録を収集・保存する活動を行っていることに触れ、
「新聞社でも常に現場が最前線だと言っているが、地域に根ざした司書の取組が図書館の肝。一番大事なのは、そこで働いている方なのではないか。
スタバのカフェも方法論としては間違っていないが、働いている人が、いかに自分たちで考えて来館者とコミュニケーションを取るか。
ルーチンワークは忙しいのに、益城町の非常勤の司書のような方がおられることに頭が下がる。」
とし、
「図書館は、記憶、愛情を育てる場所で、人生のとても長い時間の一部分を受け持っているという意識。
図書館で働く人々は、そこでの仕事が人々の知性の揺り籠になったと胸を張って良い。
大上段に振りかぶるものではなく、本がある場所はすごく大事。
司書がやりがいのある環境を作るのが行政の仕事であり、司書が気持ちよく仕事ができるかどうか、そういう環境を行政がどれだけ作れるかどうかが大切だと思う。」
との発言で、シンポジウムの第一部を締めくくりました。
この後、休憩をはさんで、会場からパネリストに寄せられた質問に答える第二部が行われました。
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