こんにちは!宮崎生まれ、宮崎育ち。宮崎愛が溢れがちな2児の母・日向夏子です。
宮崎市・山形屋裏で42年、多くの食通たちを唸らせてきた蕎麦の名店「そばや哲心」が、全国でも珍しい形で事業承継を行い、新たな一歩を踏み出しました。
それは、それまでの経営者であった小田哲也さんの実娘である谷口凡子さんが「味と暖簾」を守り、長年の常連客だった守屋亜理沙さんが「経営の裏側」を支えるという、親族と第三者が手を取り合う“チーム体制”。
新しい体制では、小田さんが会長に、谷口さんが代表取締役に、守屋さんが取締役に就任しました。
なぜ、この形だったのか?
そこには、創業者が築き上げてきた“魂の出汁”を絶やしたくないという、強い想いがありました。
宮崎出身で、京都で10年の修業を積んだのち29歳で独立を決意し、「哲心」を創業した小田哲也さん。
「当時はね、『全国で通用する出汁が作れる』という絶対的な自信があったのですが、そこから不思議とご縁が重なりました。
宮崎にいる母から『良い物件があるよ』と教えてもらったのが、山形屋の裏手にあるこの場所。
お正月や盆暮れに山形屋へ買い物に来られるような、本物を知るお客様が集まる場所なら、自分の蕎麦で絶対に勝負できると確信しました。
開業当時、ざるそばを500円という強気な価格で出そうとした時は、親からも『そんな贅沢な値段で誰が食べに来るんだよ』と猛反対されました。
でもだからこそ、私は妥協のない“本物の味”を届けたかった。
お客様に喜んでいただくために何ができるか、毎日創意工夫を重ねてきた結果が、今の『哲心』に繋がっています。」
と小田会長。
また、娘であり新代表の谷口凡子(みなこ)さんは、父から受け継いだ哲学について、こう語ります。
「父はいつも、『100人のお客様に1回来てもらうより、1人のお客様に100回来てもらえる店になれ』と言っていました。
その想いこそが、長年愛され続ける哲心の根幹になっていると思います。」
一度は「閉店」という言葉も頭をよぎった哲心。
その危機を支えたのは、谷口凡子さんの父への尊敬と、同じ想いを持つ仲間の存在でした。
「父と母が高齢になり、兄が京都で新たな挑戦をすることになった時、正直、私一人ではこの店を守りきれないと途方に暮れました。
でも、42年続いたこの店を、この大切なお出汁を、宮崎から絶対になくしたくない。その想いだけは、どうしても消えなかったんです。
親族以外の力を借りて店を続けていくことに、父も最初はたくさんの葛藤があったと思います。
でも、誰よりも哲心を愛してくれている守屋さん夫妻の人柄を近くで見ていたからこそ、最後は信頼して、私たちの背中を押してくれました。」
と、谷口新代表は語ります。
谷口新代表が“同じ想いを持つ仲間”と評するのが、宮崎市内を拠点にEC事業やPR・HR事業を手掛ける守屋夫妻。
最初は哲心の“ただのファン”だった守屋亜理沙さんが、なぜその経営に参画することになったのでしょうか?
「私は本当に、『哲心がなくなると困る!』というファンとしての気持ちだけだったんです。
東京に住んでいた頃も、帰省するたびにこっそり一人で食べに来るくらい、このお蕎麦が大好きでした。
『閉店するかもしれない』と聞いた時、夫が『こういう形で力になれるんじゃないか』と、今の新しい承継の形を提案してくれたのがすべての始まりでした。
凡子さんが安心して美味しいお蕎麦やスイーツを作り続けられるように、私たちは経営や広報など“裏側”を支える役割に徹しようと。
前例のない承継の形だったので、事務的な手続きは本当に大変でした。
でも、戸惑うたびにたくさんの方に相談し、アドバイスをいただきながら、みんなに伴走してもらって手探りでここまで来ました。
何より、凡子さんと私たちが『哲心が好き』『この店を残したい』という同じベクトルを向いていたからこそ、壁を乗り越えられたのだと思っています。」
看板メニュー「醍醐蕎麦(だいごそば)」は、ここ数年でさらに進化を遂げています。
たっぷり削りかけられたチーズは、まるで粉雪のよう。
そこに濃厚な旨味の大分県産“龍の卵”、やまぐち橄欖(オリーブ)店のオリーブオイルが全体をまろやかに包み込み、新たな蕎麦の可能性を教えてくれます。
さらに印象的なのが、自家製の黒胡椒。
その胡椒は、哲心でお出汁を取った後の“だし殻”を肥料に、宮崎の「いちごポタジェ株式会社」によって育てられている、宮崎産なのだそうです。
また、あいち鴨と高鍋町で育ったオーガニックのクレソンをふんだんに使った「萌葱(もえぎ)そば」も人気メニューのひとつ。
一度も冷凍していない新鮮な鴨肉は、圧倒的な分厚さなのに驚くほど柔らかく、噛むたびにジューシーな旨味が溢れ出します。
クレソンは、黒木本店、尾鈴山蒸留所の製造過程で生じた焼酎粕を有機肥料とした土づくりを基本に農作物の栽培を行っている「甦る大地の会」(高鍋町)で生産されている有機栽培クレソン。
贅沢に「新芽」のみを使用しているため非常に柔らかく、口いっぱいに華やかな香りが広がります。
さらに驚いたのが、中に隠れている茄子!
絶妙な火入れで、鴨の旨味が溶け出したお出汁をたっぷりと吸い込んでおり、箸が止まらなくなる美味しさでした。
食後のデザートとして外せないのが、凡子さんが手掛けるこだわりのスイーツたち。
上品でいてダイナミックなその味わいからは、随所に施された細やかな手仕事が伝わってきます。
お腹も心も満たされる、まさに格別な贅沢時間です。
「哲心のメニューは今、どんどんパワーアップしています。
生産者さんとの繋がりを大切にし、お蕎麦の中で資源が循環している。
この宮崎の誇りを、もっと多くの人に知ってほしいと思っています」
と、守屋取締役。
“美味しい”だけでは終わらない。食材や人との繋がりまで感じられる一皿でした。
最後に谷口代表に今後の展望を伺うと、こんなふうに話してくれました。
「まずは、目の前のお客様に丁寧に向き合うこと。本当にただそれだけです。
一歩ずつしっかり積み重ねていきたい。
『”哲心があるから”宮崎に行きたい』と思ってもらえるような、そんなお店になれたら嬉しいですね」
42年の歴史を受け継ぎながら、新しい形へ進化していく「そばや哲心」。
その一歩一歩を、これからも見守っていきたくなる。そんな温かな取材時間でした。
ぜひ皆さんも、新たな一歩を踏み出した哲心へ足を運んでみてください。
【そばや哲心(有限会社哲心)】
住所:宮崎市橘通東3丁目4-9 → MAP
電話:0985-27-7724
営業時間:11:00~14:30
定休日:月曜日