最近、中山間地域における農林産物の鳥獣被害について聞くことが多くなりました。 特に中山間地域においては、人口の減少とともに山の獣たちの生活領域と人里との境界が曖昧になりつつあり、狩猟をする人も減っているので、必然的にこれまで人間が暮らしていたエリアで獣が活動することが増えているという訳です。 このため、狩猟を産業化し、狩猟で捕獲された獣の肉を「ジビエ」として販売、この他に皮なども利用することによって収益を上げようという試みが各地でなされています。 「ジビエ」自体は、食材としての珍しさとヘルシーさもあって、このところ女性を中心に注目を集めるようになってきていますが、家畜と違い精肉にするまでに時間がかかることも多いため、安全で美味しい「ジビエ」の流通には、困難もあるようです。 そのあたりの現状はどうなっているのか、宮崎市西橘通にある「故郷料理 カリコボーズの里」にお邪魔してきました。 「カリコボーズの里」があるのは、西橘通のランドマーク、ダイヤモンドビルの地下1階。 入口の横には、西米良産のサーモン、イノシシ、シカの文字が。 そう、ここは、西米良産のジビエを扱う専門店でもあるのです。 入口から、玉砂利に踏み石の置かれた長い廊下が伸び、その奥の壁には、角のついた鹿の頭骨が飾られています。 西米良村では、2014年1月に上米良地区で狩猟で捕獲したシカやイノシシなどの解体施設が整備され、一頭ごとに狩猟現場からすぐに解体施設に運ぶことにより、素早い血抜き処理と解体によって、臭みの無い清潔な精肉をパックして出荷することができるようになっています。 通された部屋は、8人は楽に入れるテーブル席。 この部屋意外にも、仕切りを外せば最大で50人は入れそうな座敷や、カウンター席などもあります。 この店では時々、西米良にまつわるイベントも行われているそうです。 テーブルにセットされた割り箸の箸袋には、西米良村の公式キャラクター「ホイホイ君」が。 ちなみに「カリコボーズ」の「カリコ」は、狩猟の際に獲物を駆り立てて追う役目をする「狩子(かりこ)」から来ており、山の尾根から尾根へ「ホイホイ」と声を張り上げながら獲物を追う様子から、「ホイホイ君」と名づけられたそうです。 割り箸の下の箸置きは、このようなデザイン。 こういう細かな部分の気配りが女子的には嬉しいと、同席してくれた美人広報部長も申しておりました。 この日お話を伺ったのは、「カリコボーズの里」を運営する株式会社Nプライドの代表取締役である那須英史さん(写真左)と、西米良村出身で福岡大学でベンチャー企業論を学んでいる最中の佐伯満貴さん(写真右)。 那須さんは、「西米良のために何かをしたい」という思いで、それまで勤めていた会社を辞め、2013年にNプライドを立ち上げ、西米良でのジビエの加工・販売と宮崎市での飲食店経営という2本の柱で、西米良の活性化に貢献しようとされています。 この「カリコボーズの里」は、西米良で産出されるジビエの消費地でもあり、しっかりと出口を作って西米良における生産を支えるとともに、宮崎市における西米良の情報発信拠点としても機能しているという訳です。 一方の佐伯さんは、那須さんとNプライドを共同経営する佐伯万樹さんの息子さんであり、西米良・村所神楽の社人(しゃじん)としても活動中で、楽隊の中で笛を担当。 神楽の時期にはほぼ毎週のように福岡から西米良に帰省して、神楽に参加しているとのこと。 今はまだ大学生で修行中の身ですが、将来は、西米良の役に立つ仕事をしたいと話してくれました。 まだ若いのに、その一途さと目的意識の高さに、居合わせた大人達はすっかり感激して、応援モードになっていたのでした。 さて、長い前置きはそれくらいにして、西米良の食材を味わってみましょう。 上品な脂と甘みの西米良サーモン まずは、西米良サーモンの刺し身。 美しいサーモンピンクで、見た目は本当のサーモンのよう。 でも、海の無い西米良で、なぜサーモンなのか、気になりませんか? 西米良サーモンは、西米良村内にある井戸内養鱒場で養殖されているドナルドソンニジマスとエゾイワナの交配種で淡水での養殖が可能なのです。 20年以上に渡る苦労の末に生み出された西米良サーモンの開発秘話については、ここでは語り尽くせないのでまた別の機会に譲るとして、臭みが無く適度な歯応えと脂の旨味のある肉質は評価も高く、安定した供給が可能なことから、全国の飲食店から注目を浴びています。 この刺し身も、上品な脂と甘みがあり、絶品の美味さでした。 続いては、その西米良サーモンを使ったの「チーズ揚げ」。 西米良サーモンの身で大葉とチーズを巻いて、パン粉をつけて揚げてあります。 軽く火を通すことにより、香りと旨味が活性化し、生とは違う味わいがあります。 これまた絶品! 臭みのない、ヘルシーな赤身の鹿肉 次に、ジビエの代表である、西米良産の鹿肉。 まずは、「たたき」でいただきました。 この盛り具合も美しい。 新鮮できれいな赤身で、高タンパク、低脂肪。 丁寧に処理されているおかげで臭みは全くなく、生肉の柔らかな食感ながら、噛みしめるとしっかりと肉の旨味を味わえます。 さすがにクオリティが高い。 鹿肉の二品目は、「竜田揚げ」。 やや濃い目に下味をつけた鹿肉に片栗粉をまぶして揚げてあるのですが、これがまた美味い。 脂肪の少ない鹿肉ですが、揚げて油を補うことによって、旨味が増すような気がします。 これまた美しい猪肉 続いて、ジビエの王様とも言える猪肉。 鮮度の良さを感じさせる赤い肉の色から、丁寧に処理されていることがよくわかります。 この日の部位を聞くのを忘れてましたが、見た目ヒレ肉っぽい感じですね。 個人的には、皮の直下にある脂肪の多い部位が好みなのですが、ヘルシーさという点では、こういう肉の方が女性ウケするのかもしれません。 テーブルの上に炭火の入った七輪がセットされ、その上に網を置いて猪肉を焼きます。 すぐ上に換気ダクトがセットされているので、煙も全く気になりません。 この猪肉もまた全く臭みがなく、豚肉とは違ってしっかりした歯応えの中に、野趣溢れる旨味がありました。 猪肉は、この炭火焼きの他に、鍋でもいただくことができるので、次回は猪鍋をいただいてみたいものです。 その他にも美味しい料理がいろいろ 何気なく頼んでしまっていた「きのこ南蛮」。 「チキン南蛮」の鶏肉が、きのこに変わったものと思っていただければいいでしょう。 こちらのお店は、「チキン南蛮」も自慢料理のひとつということで、この「きのこ南蛮」のタルタルソースも激ウマ。 特に、肉厚椎茸との相性は抜群でした。 こちらは、「西米良コロッケ」。 一見、普通のコロッケのようですが、実は「煮しめ」を包んで揚げてあるコロッケなのです。 ちょとと甘辛く濃い目の味が、焼酎によく合います。 そして、「地こんにゃくの刺し身」。 西米良産のこんにゃく芋と灰汁で手作りされた地こんにゃくは、そのあたりで売ってるこんにゃくとは段違い。 普通のこんにゃくって素材の味を感じることはあまりありませんが、この地こんにゃくの刺し身は、シコシコした歯応えとともに、しっかりとした旨味を感じます。 こんなに美味しいこんにゃくは、久しぶりに食べました。 美味しい料理の数々を提供していただいた、料理長の海老原 賢さん。 国富町のご出身ということですが、西米良愛溢れ、いろいろな店で修行を積んだ、確かな腕の持ち主です。 今回ご紹介した以外にも、西都・有田牧場のエモー牛や鶏唐揚げ、めひかりなど、自慢の素材や料理がたくさん。 カウンターに座って、料理長の話を伺いながら、美味しい料理を味わうのもまた良さそうです。 先日発表された国勢調査の結果では、西米良村の2015年10月1日現在の人口は1,089人で、前回調査から12.2%もの減少となっています。 山村留学やワーキングホリデーなど、観光、定住支援に様々なアイディアで取り組んでいる印象のある西米良ですが、その現実は依然として厳しいものがあります。 村の将来のために懸命に取り組む那須さんや佐伯さん達のお話を伺い、ムラとマチを繋ぐこの「カリコボーズの里」の重要性が改めてわかりました。 マチに暮らす者の一人として、少しでもムラを支えるお役に立てるよう、また食べに寄らせていただきます。ジビエも美味しかったしね。 【カリコボーズの里】 宮崎市橘通西3丁目2−13 ダイヤモンドビル B1F ⇨ マップ TEL:0985-31-6097 営業時間:17:00~23:00 L.O.22:30 店休日:毎週月曜日 Webサイト:http://www.karikobozu-sato.com/