生まれも育ちも宮崎市ですが、ルーツをたどると日南市に行き着くDiceです。 日南市と言えば、油津商店街の再生で何かと話題であり、テゲツー!でも何度かレポートしているところですが、他にも再生に取り組んでいるエリアがあります。 そう、城下町・飫肥です。 去る11月15日(水)の夜、その飫肥城下にある国際交流センター小村記念館で、「飫肥まちなみ再生報告会」が開催されたので、日南線に乗って取材に出かけてきました。 コーディネーターが語るグランドビジョン まず、全体のビジョンについての説明に立ったのは、2015(平成27)年8月から日南市の「まちなみ再生コーディネーター」として、古民家の活用を中心に飫肥のまちなみ再生に携わっている、徳永煌季さん。 「828」という数字から説明を始めた徳永さん、この日(2017.11.15)で日南に引っ越してきてから828日目とのこと。 「これまでの飫肥での事業費総額は2億1,500万円で、このうち日南市が使った額が2,500万円で全体の1/8ということです。 4月25日に開業した、宿泊施設「季楽 飫肥」の4~12月の売上げは、2棟合計で750万円。概ね思っていたラインで推移しています。 1組当たりの客室単価は約4万円/日で、日南市全体の観光消費額1,600円/人日に比べると格段に高いです。 これまでの宿泊人数は400人で、うち140人は海外からの方。夜に海外の方がごはんを食べに来るという需要が生まれています。 視察の回数は、これまで120回もありました。 (株)プラスディーの新規雇用者は6名、飫肥での事業のために移住してきた人は2名(小田切俊彦さんと小松正彦さん)です。」 と、数字を並べて行きます。 そして、お話は核心へ。 続きはこちら 飫肥の全体ビジョン案 飫肥の全体ビジョン案 画像出典:みやざき観光情報旬ナビ フォトライブラリー 徳永さんのお話は、核心に入っていきます。 「日南市の人口は、1日に2人ずつ減っており、観光客も減っていて、まだまだ消費額も低い状況です。 まちなみの保存のためには、飫肥にお金を落としてもらうことが必要です。 これまでは、行政がお金をかけてまちなみを修繕して保存してきましたが、これからは保存から活用へと転換することが必要です。 そのために、観光に来る人の滞在時間を延ばす必要があります。観光の経済効果は、1人当たりの消費額が高いことが特徴です。飫肥は、交流人口を増やさないといけません。 これからは、お金を落とす人を飫肥が選んで、そのお金でまちづくりをします。」 画像提供:Kiraku Japan 合同会社 「コンセプトは、『HAN’S=藩's』。 『はんず』という響きには、『藩のもの』という意味のほかに、『手のぬくもり』という意味も含んでおり、飫肥の人の手によって作られたものを指しています。 使われていない文化遺産を、集客できる文化資産へと転換し、まちなみや文化を集客できるものにして、伝承していきます。」 こうしたコンセプトの下で、飫肥のまちなかにある文化建築を、単体での館内完結型ではなく、地域連動型にして行きたいとのこと。 飫肥ならではの小商い、メイドイン飫肥、メイドイン日南が体験できる、そういう施設がいろんなところにある未来を描いています。 画像提供:Kiraku Japan 合同会社 そのために、それぞれの文化建築がどういう意味合いを持つのか、どういう機能、役割を持たせるのかを整理し、具体化する作業が、行われています。 例えば、旧飯田医院には、まちなかに整備する様々な宿のフロント機能を持たせ、チェックインをここで一括してできるようにしたり、旧高橋源次郎邸、商家資料館などの既存の由緒施設も、その建物をかつて使っていた人の精神や歴史を抽出して、空間に体現していくことや、伝統×テクノロジーで伝統建築の新たな表現の仕方ができるようにしたい、とのことでした。 会場からのQ&A ビジョン案の提示が終わったところで、会場からの質疑応答に移りました。 ざっと書き起こすと、次のような感じになります。 会場:夢のある計画で感動しているが、京都や高山だから成立する部分があると思う。飫肥のエリアの小ささ、リピーターとなるための交通手段の不便さについて、どういう所まで考えているのか? 徳永:その不安は自分も持っている。 宿はオープンしたが、稼働率は5~6割。日南市の宿泊施設の平均は3割なので、宣伝をやれば人は来る。外国からも3割。徐々に増えている。 交通手段は、レンタカーの利用が多い。2泊以上は、何もこちらからしなければ泊まらない。 実際に、東京からのお客さんを案内した経験から言うと、2泊3日でも足りないものはいろいろある。どう案内して、見せて、体験してもらえるかが整備できれば。 小さな商いが少しずつ増えてくれば。 一歩一歩の積み重ねが大事なので、確実に解決して行きたい。 小田切:飫肥は、皆さんが住んでいる所と宿が近い。 京都は非日常だが、今は異日常が求められている。 おもてなしの部分に協力いただければありがたい。 会場:日南観光の課題は、日帰りが主体で宿泊につながらないこと。夜のイベント、夜の過ごし方の演出が下手。ヨーロッパは、夜のプログラムが多様。 今度の試みには期待している。宿泊した場合と日帰りとではお金の落とし方が違う。展開していただくとありがたいので、頑張って欲しい。 小田切:日帰りと宿泊では、16倍も違う。 会場:合屋邸の前に住んでいるが、夏休み中に2~3泊する客に会った。小学生の子ども2人がいる家族連れだったが、どこか遊ぶところはないかと聞かれた。大人は良いが、子どもが楽しむところが無いと聞いた。 徳永:まず、意思決定をする人(大人)を満足させた上で、次に考えなければならない問題。 小村記念館は、夜もイベントがあったりするので、これから考えて行きたい。 会場:雇用の部分は、日南から採用するのか? かなりのレベルが求められると思うが大丈夫か? 徳永:季楽の運営は、一部城下町保存会にお願いしている。 小鹿倉邸は、京都から1人トレーナーが来て、地元で3~4人の雇用ということも想定され得る。 京都クオリティのサービスを日南に持って来たい。 飫肥城の旧本丸跡で神楽を見ることができたり、弥五郎どんはテクノロジーで再現したりしたい。 質疑応答に続いては、日南市地域振興課非常勤特別職の小田切俊彦さんからの活動報告です。 続きはこちら 3月にDENKENWEEKやります 3月に「DENKEN WEEK」やります 日本の大手ディスプレイデザイン会社で空間プロデュースを専門とする乃村工藝社が前職で、2月から日南に移住して、日南市地域振興課非常勤特別職として活動している小田切俊彦さん。 これまで、これまで商業施設やミュージアムの基本計画や演出の領域での仕事が多く、空間創造+空間活性化+地域活性化を得意としています。 現在は、塒珈琲の上にある事務所を拠点として、飫肥の活性化に向けて活動されているのだそうです。 今やっていることは、町並みの再生+日々の営み(小商い)で、飫肥への期待値を上げることということで、小商い大学やクラウドファンディング説明会を開催したりして、一緒にチャレンジする仲間づくりも行っています。 アイディアと資金を募る覚悟があれば資金は調達できるということで、文化庁の事業を活用して、市のお金は使わずに事業を展開中です。 興味深いのは、飫肥、日南の柑橘を使って、ビール造りにチャレンジしているとのこと。 現在、マルチ日南1号というみかんで仕込みの最中なのだとか。これは飲んでみたいですね。 画像出典:みやざき観光情報旬ナビ フォトライブラリー そんな小田切さんが飫肥城下文化財を活用した観光まちづくり協議会として計画しているのが、「DENKEN WEEK」というイベント。 飫肥は、重要伝統的建造物群保存地区に指定され今年で40周年を迎えます。「DENKEN」は、その「伝統的建造物」の存在する街並みを由来としています。 3月10日(土)~18日(日)に予定されている「DENKEN WEEK」は、飫肥の歴史的な街並みを利活用する取組として、プロジェクションマッピングやマルシェ、アートイベント、シンポジウムなど様々なパーツを組み合わせて、歴史的な街並みや文化財をはじめとした土地固有の文化の素晴らしさの発信を行う一週間にしたいと考えているそうです。 画像出典:みやざき観光情報旬ナビ フォトライブラリー イベント期間内に行われるガストロノミーでも、ローカル文化の魅力化、食文化の多様性の継承と刷新など様々なコンセプトと共に食事が提供されることになるようです。 またゲストアーティストとして、身近な生態系をテーマに制作に取り組んでいる画家として有名な、宮崎出身の小松孝英さんを招聘する予定であることも公表されました。 シネマ、ガストロノミー、プロジェクションマッピングといった夜のイベントも用意され、宿泊客を呼び込み、今後に繋げていく取組も考えられているようで、開催が楽しみですね。 続いては、旧伊東家を利用したプロジェクトについての発表です。 続きはこちら 旧伊東家は飲食店に 旧伊東家は飲食店に 「季楽 飫肥」の通りをはさんだ向かい側にある旧伊東家の利活用事業については、オーナーの本田清大さんが急用で参加できなくなったため、プロジェクトに関わっているパークデザイン株式会社の鬼束準三さんと、イーナプリンの森山忍さんの二人がプレゼン。 鬼束準三さんは、油津商店街を始め、日南市内のオシャレな店舗やオフィスのデザインを多く手掛けている、日南の今を作っているデザイナーのお一人。 旧伊東家は、建っていた古民家の傷みが激しかったため、いったん全部取り壊して、新しい部材を用いて再建築されるそうです。 鬼束さんとしては、元々の茅葺屋根の再現にチャレンジしたかったとのことですが、建築基準法による制限があって難しく、とりあえずは元の形を模した金属製の屋根になるとのこと。 元の家を解体して整地する工事が終わり、11月下旬から建築工事が始まりました。 そして、もう一人の森山忍さん。 日南市のご出身で、宮崎市でイーナプリンを経営されていますが、数年前から飫肥で出展のための物件を探されていて見つからず、2年前に油津商店街のコンテナハウスに出店。 1年前に(有)大清の本田清大さんから、飫肥の再生プロジェクトへの参加要請があり、最初は断わりましたが、再度の要請を受けて決意したとのこと。 「地元日南に一人でも多く雇用を増やしたい。 新しい価値を創造していくための店を作りたいと考えていますが、そのためには、地元のみなさんの協力が必要です。 具体的な内容については、これから作り上げていきますが、オープンしたら是非足を運んでください。」 と森山さん。 画像提供:パークデザイン株式会社 新しい伊東邸のオープンは、2018年春の予定ということですが、どんな飲食店になるのか楽しみですね。 後日、この日不在だった本田さんに追加取材したところ、伊東邸プロジェクトは、全体の運営を本田さんが自ら行い、森山さんがパティシエとしてバックアップする体制となったとのこと。 鬼束さんも含め三人のタッグで、どのような飲食店ができあがるのか、今後の動きについては改めて取材を行ってお伝えできればと思います。 続いては、旧小鹿倉家の利活用計画について。 続きはこちら 旧小鹿倉家は高級宿泊施設に 旧小鹿倉家は高級宿泊施設に 飫肥を代表する武家屋敷のひとつ旧小鹿倉家については、公募の結果、京都で宿泊施設を運営する(株)Yumegurashiが、宿泊施設として再生を手がけることになっています。 この日は、Yumegurashiの関係者に代わって、徳永さんが、概要について説明されました。 「同社が運営している京都の宿泊施設は、客室単価が7万円と高額にも関わらず、稼働率が92%と高いのが特徴です。 今回残念ながらおいでになれませんでしたが、大門慎吾代表は、若手で非常に優秀な方です。 京都の宿は、小鹿倉家と規模が似ています。ただ泊まるだけではなく、地域の資源を繋ぐものとして、飫肥だけではなく、そこから周辺へと誘導する、地域のハブ(HUB)となる施設を目指します。 京都の宿の顧客の40%は中国大陸から、10%は欧米からと、海外の富裕層の利用が多く、旅行商品を自分たちで作って、現地の代理店で販売しています。このため、旅行商品として、飫肥だけではなく周辺にも送客が見込めます。 小鹿倉家は、飫肥藩の医師の家だったもので、全室に露天風呂を設置する計画があります。 宿泊客に様々な体験を提供し、長期滞在を見込みます。」 以上、予定されていた報告が終わり、最後に、崎田日南市長の挨拶がありました。 続きはこちら 崎田市長による総括 崎田市長による総括 「JR九州の唐池会長は、観光列車の『海幸山幸』も手がけた方で、全国で引っ張りだこなのですが、毎回のように講演の1/3~1/4は飫肥の話をされます。 住んでいると気づかない、素晴らしいものがこの町にはあります。 『季楽』は、稼働率が徐々に上がり今では5〜6割の月も多いという話がありました。九州の旅館の平均が3割弱です。 食事無しで1泊1万5,000円なのですが、稼働率3割からのスタートで、次第に上がってきています。来てみると良さを感じてもらえるんです。 徳永君が飫肥に来て、小田切君が来て、プラスディーの小松君が来て、地元の若者達も感化されています。 彼らは、市の金は使っていません。使っているのは文化庁の金、予算を持ってきてやってくれています。そこが有り難いところです。 夜の過ごし方の話しもありましたが、この1~2年が勝負時。ここをしっかり乗り越えて行きたいと思っています。 これまで、保存している施設の庭の木の維持費に百数十万円かかっていましたが、利活用ができれば、これがいらなくなって、逆に市にお金が落ちるようになります。 市の税金は、福祉とか子どもの貧困対策とかに使わないといけないんです。 誤解されている方もいらっしゃるようですが、『季楽』の宿泊施設やプラスディーのオフィス、旧伊東邸の4棟の整備に、市の金は2,500万しか使っていません。投入された2億以上の事業費の1/10以下です。 日南市は、飫肥には10年で2億も使っていないんですが、彼らは2年で2億円を投下してくれまた。 飫肥の地域の皆さんが、これまで景観を守ってきていただいたからこそ、今の価値があります。保存会、泰平踊り、人力車を引いていただいている皆さんの力です。 これに民間の力を合わせることでさらに良くなります。 この事業で、若者が飫肥に住むようになることが目標です。飫肥で家族を養える給料を稼げるようにしたいと思っています。是非とも応援していただきたいです。」 以上、これでもかなり端折りましたが、報告会の全容をお届けしました。 徐々にその姿が見えつつある飫肥のまちなみ再生も、着実に進んでいるようで、今後のプロジェクトの進行が楽しみです。 テゲツー!でも、それぞれの施設やイベントについて、引き続きウオッチして、適宜レポートしたいと考えていますので、お楽しみに!!