賽子図書館オーナーのDiceです。
カリーノ宮崎の地下、「Ascente Cafe」でテゲツー!ライブラリというマイクロ・ライブラリもやってます。
11月13日(日)に、宮崎県立美術館の1階アートホールで、「みやざき読書講演会『みんなでつくるライブラリー』」という、テゲツー!の長友まさ美会長も参加したイベントが開催されたので、こればかりは他のライターには任せられないと、勇んで出かけてきました。
まずは、みやざき読書講演会実行委員長(県生涯学習課長)の恵利修二さんがごあいさつ。
「宮崎県は、『日本一の読書県』を推進していますが、何を持って日本一なのか?と問われることがあります。
確かに、数字、指標、ゴールイメージを持ち出したくなりますが、
『子どもから大人までが読書に親しむ、本を読む姿が県内あちこちで見られる。』
そういうイメージを目指しています。
日本一に向けて、我々ひとりひとりが共通のイメージを抱くことが大事かと思います。
日本一を目指して様々な事業に取り組んでいますが、今回は、大切さを皆さんと考えようということで、教職員互助会の助成を受けて開催することとなりました。
今日は、礒井純充さんを講師としてお招きしています。
『まちライブラリー』は、本で人と街を発酵させるという取組で、全国で400ヶ所以上に広がっていると聞いています。
ご講演の後、長友まさ美さんと杉田剛さんにも登壇いただいてお話を進めることにしています。
私自身、とてもワクワクしていて、有意義な時間が過ごせることを楽しみにしています。」
続いて、本日の講師、礒井純充さんが登壇。
礒井さんは、「まちライブラリー」の提唱者なのですが、その「まちライブラリー」というのは、まちの中に場所(本棚)をつくって、よびかけてみんなで本を持ち寄り、それを誰もが利用できるようにしようというもので、マイクロ・ライブラリーのひとつの形と言えます。
礒井さんは大阪生まれで、大学卒業後、森ビルに入社。
1987年、29歳の時に、森ビルの創業者・森泰吉郎さんが、アークヒルズの地下4階の20坪の部屋で始めた人材育成のための私塾「アーク都市塾」の事務局をやるようになり、その20坪が1996年には450坪の規模に、2003年には六本木アカデミーヒルズの3,000坪の会員制ライブラリーに結実していったのだそうです。
これで大成功と言えると思うのですが、礒井さんは、規模の拡大とともに次第に顔の見える関係が無くなって行っていることを感じていたのだそうです。
それは、目線の乖離、予算制度の徹底、先進性よりも実用的なもとめる傾向に現れていました。
そんな中の2010年、礒井さんにとっては「心も体も折れた時代」なのだそうですが、当時26歳だった友廣裕一さん(現・一般社団法人つむぎや代表)との出会いが、礒井さんを大きく変えました。
友廣さんは、大阪府大東市の生まれで、早稲田大学を卒業後、80の限界集落を半年間歩き回り、現在は、東日本大震災の被災地・石巻、男鹿半島で“地元の人”を支え、鹿のアクセサリーづくりを支援しています。
その友廣さんと、限界集落を巡る旅の途中の居酒屋で話してわかってきたことは、
「自分探しが目的だった旅で、目の前の人が見ず知らずの自分にいろんなことをエネルギーをかけて教えてくれることに気づき、旅の目的が、『目の前の人を喜ばせたい』に変わって行っていること。」
だったのだそうです。
その時礒井さんは、自分の目的の喪失を悟り、
「はっきり言って負けたなと思った。」
のだそうです。
それまで、仕事を通じていろいろな人と出会ってきた礒井さんですが、自分にとっての人脈が、地位がなくなると去っていくことに気づいていたのでした。
そこで、友廣さんに弟子入りすることにして、旅をともにする中で、「まちライブラリー」の発想を得たのだそうです。
礒井さんが、もうひとり影響を受けたのが、元通産官僚で、早稲田大学理工学院教授の友成真一さん。
礒井さんが師と仰ぐ友廣さんの師匠でもあります。
友成さんは、『問題は「タコツボ」ではなく「タコ」だった!? 「自分経営」入門』という著書が有名ですが、その友成さんとの出会いにより、マクロからミクロへの視点の移動、自分の腑に落ちる夢を見つける「自分経営」を意識することで、ミクロ(個人)の視点に立ち、
「心を入れ替えて、個の大切さを求めての生まれ変わり」
が得られたということでした。
そしてそれが、寄贈してもらう本にオーナーからのメッセージカードを添えて、その本を読んだ人がそのカードに感想を書き連ねていくという、「まちライブラリー」独自の仕組みに繋がって行っています。
礒井さんの考える「まちライブラリー」のコンセプトは、
「メッセージをつけた本を媒介にしたコミュニティ」
で、その場所で「学びの会“学縁”ができたらいい」とおっしゃいます。
そして礒井さんご自身は、故郷の大阪につくった20坪5,000冊の「ISまちライブラリー」で、毎月第3土曜日に本を持ち寄って自己紹介をする会「本とバルの日」を開催されています。
この後、礒井さんから全国各地の「まちライブラリー」の事例の紹介がありましたが、今では、カフェや個人宅、お寺、病院、小学校、大学、商店街、公園、自然の中など、様々な場所に400ヶ所以上できているのだそうです。
実は宮崎県内にも1ヶ所だけ、都城市内の書店・都城金海堂の中に「まちライブラリー@金海堂」があるのですが、書店の中にあるのは、全国でも珍しいケースなのだとか。
書店の数が、ここ15年で2万店から1万店に半減し、まちの中から本が消えて行っている状況の中で、「まちライブラリー」は、まちの中に本を取り戻す取組でもあります。
礒井さんは言います。
「まちライブラリーが目指すものは、まち、地域、社会、会社、図書館といった大きな鍋に酵母を入れることです。
鍋の中身がうまく行かないと、どうしようもありません。
それには、自分自身が楽しいと思わないと。
それで人が集まり、人が集まれば、まちの課題やアプリケーションに対応してくれる人が出てきます。」
「まちライブラリー」のポイントは、
1.個人の力で半歩進む
2.お互いに助け合う
3.やれることからやる
4.多様な人を受け入れる
5.目標ではなく楽しみにする
6.みんなで輪になりましょう
の6点。
何で輪になった方が良いかについて礒井さんは、MITメディアラボ教授のアレックス・ペントランドの『ソーシャル物理学』の中から、次のような言葉を引いて、お話を終えられました。
「個人の創発より、より多くの人とのつながりによる知が、成果を生み出す」
礒井さんのお話を受けて、宮崎商工会議所の杉田剛さん、サンワード・ラボ株式会社の長友まさ美さんの3人による短いセッションが行われました。
その中で杉田さんが、
「器でなくて、中の人が大事だということがわかりました。
イベントをやる際には、たくさん人が集まる方がいいけど、それよりも、やり続けることが大事なんですね。」
と発言したことに対し、礒井さんは、
「世界の人とは6人で繋がっていることを、ハーバード大学の学者が調べました。
知り合いを介して手紙を順に送って行くと、平均5.4回で最終目的の人につながったのだそうです。
それを後に、物理学者が数学的に解きました。
人間関係は緩いつながりで、それが世界中につながっているんです。
人間のやっていることは、一見小さいように見えて、幾何級数的に広がっていきます。」
と返しました。
そして最後に、
「宮崎のてげてげな文化は、まちライブラリーに向いていると思います。
関係性でつながっていくことで、素晴らしいコミュニティが生まれると思います。」
とセッションを締めくくりました。
この後、長友まさ美さんのリードのもと、参加者が同じような関心分野を持つ4~5人のグループになって、自分たちが「まちライブラリー」を作るとしたら、どのようなライブラリーにしたいかを話し合い、その成果を発表する、“妄想”ライブラリーのワークショップが行われました。
この中から、宮崎にも新たな「まちライブラリー」が誕生すると良いですね。